Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

きらきら

“永久未来続くものなどあるはずはないから これで行くさ僕は僕を壊してく”

ブエノスアイレス午前零時 12/26 @シアターBRAVA!

 

とても好きな舞台だった。引き込まれた。そして泣いた。鳥肌が立ち胸が締め付けられ言葉が刺さり,泣いた。二幕は途中から涙が次々と溢れてきた。悲しさとか切なさもあるのだけれど温かさもあってだからこそ切なくなる。本当にラブストーリーだった。ニコラスとミツコの,カザマとマリアの。

 

最後にタンゴを踊っていたのは誰だったのだろう。カザマか,ニコラスか,カザマが重なったニコラスかニコラスが重なったカザマか。次に正面向いて立っている人を見て,あれ,誰だろうって思った。鉈切り丸のときも夜中に起こった~のときも,カーテンコールで出てきた人にさっきまで存在していた人物の余韻は一切なくその落差が衝撃でもあったのだけど,今回は(始めからそこに立っていたからかもしれないけれど)そういうはっきりとしたものはなくて不思議な感じがした。3回目くらいで「あ,剛くんだ」って思った。出てくるときに少し微笑んでいたり最後手を振ったりしたのを見たからかもしれないけれど(そして剛くんが手を振ったときにそこを中心にふわあああっていうさざめきが広がっていてこれぞ…!と思いました。離れていた私だって体温上がった)。

カザマとニコラスと,森田剛。カザマとニコラスが重なり合い,でも違う人で,でもどこかで繋がっている,そういう場面が積み重なり,そこにそれを演じている森田剛というひとりの人間も組み込まれて,終わった後も「これは誰なのだろう」という感覚になったのかな。それぐらい引き込まれる舞台だった。

一幕の最後,一瞬の光で照らされたセピア色の景色が目に焼き付いた。踊っている人々,その影。客席が明るくなって自分の前にたくさんの人の頭が見えてきたときに自分がいる場所がわからなくなった。あれ,ここどこだろうって。そして息を吐き出した。吐き出して息を詰めて観てたのだと,あの世界に入り込んでいたのだと気が付いた。

 

二幕が始まる前に,ふとタンゴを踊る剛くんの姿が思い浮かんでなんでかわからないけれど泣きそうになった。そしたら二幕でたくさん泣いた。

二幕がどうして出会ったときのことから始まるのだろうと思っていたら。二度目だった。出会ったときから救われていた。愛してる。お前に自由になれと言ってるんだ。私はもう,娼婦じゃねえ!花札

カザマとミツコがざっくばらんに話すのが好きだった。瀧本美織ちゃんの存在感がすごかった。マリアの声と重なるように歌いだしたミツコの歌声に鳥肌が立った。しかもしばらく続いていた。マルコーニの女になった後,花札を受け取ったニコラスの「お預かりします」という言葉に胸が締め付けられた。ここしかないでしょ,俺の役目。ニコラスが,カザマが感情を剥き出しにして声を荒げるたびにはっとした。息を止めた。ニコラスは時に女を買う客に対して上から構え,でも次の瞬間頭を下げ,弱さを見せる。そして優しい。

カザマは見られないように隠れている。でもニコラスの感覚のまま感情をぶつけるようになる。マリアは見られていない。だからニコラスとミツコが立っている場にも存在する。気付くとそこにいる。見られていないから。見えるのは見たくないものばかり。マリアのこの言葉に大きく頷くカザマが印象的だった。手に入れたものは幻想,指から零れ落ちていく。望むことを知っている,欲しいものは知っている,知るために生きている。マリアがカザマに言った言葉はニコラスがミツコに言った言葉。何がしたい。ニコラスの言葉でミツコは覚悟を決める。新潟と福島の県境,そしてブエノスアイレス。続く言葉,誰が言ったのか誰に聞いたのか。最後,社長が温泉卵を前にして「内緒,だからね」と言うところが好き。もうあの時間と場所を越えた世界は完結したと思っていたのに,そこでまた聞いたことのある言葉。男の,義務だから。フアンが兄になり,豆腐屋を継ぐことを告げるところも好き。弟を想う兄だと思った。もう少しここにいてもいいですか,ここで,迷ったまま。いる場所は変わらないけれどカザマの中では何かが変わった。何がしたい。ミツコと正面から出ようとしたこと。そしてタンゴ。

「ここで,迷ったまま」剛くんが台詞を言うとき,剛くんにしかあり得ない何かがあるのって何なのだろうっていつも思う。この言葉も,何がどうとは言うのは難しくて出来ないけれど,耳にした瞬間何かが掴まれる声だった。踊り続ける。ブエノスアイレスの男は笑わない,笑うよ,笑わない,笑う。

 

横転のニコラスの横転が鮮やかで横転に見惚れてしまった。あと人を蹴ろうとするときの足の動きとか。でもやっぱりタンゴ。マリアとミツコと踊るところ。カザマが,ニコラスが相手を見据えながらひとりで踊るところ。ほんのわずかな時間なのだけど,そのときの足捌きが。動きが。何を見ているのだろう私はってよくわからない感覚になった。色気?目を離せない何か。マリア,ミツコとのタンゴは息するのも惜しいくらいだった。剛くんがひとりで踊ったときにもざわめきというか空気が揺れた。

そして最後。舞ってくる雪を見上げていたカザマが次の瞬間,ばっと足を出していた。空気が変わった。あまりにも突然で,そして速くて気付いたらそうなっていた。ぞわっとした。後ろ姿から始まり暗くなり,影だけになる。安定した世界に帰ってきたと安心していたのに最後にまた引き始めていた余韻をかき乱されたようだった。終わり方が好き。

 

舞う雪に心惹かれた。ブエノスアイレスでも新潟でも。ああ,だからこの時期なのだと。今の季節にやるからこそなのだと。パンフレットを読み,まさしく「再現」ではなく「創作」なのだと思った。小説だから出来ること,舞台だから出来ること。酒場とみのるやの転換の演出が好きだなあと思った。両者が,そこにいる人々の境目がどんどんなくなっていくところも。その人が口にしそうな言葉,重なる部分。

冒頭からずっといるのに言葉を発することなく,それなのにカザマの存在感は強くてそこにいるだけなのにって思ってた。カザマは見られないように隠れているけれど,観客としてのわたしにとってカザマはどこにいても,まわりの男の人たちの方が恰幅がよくて大きくても,隠れることはなかった。単に主役とそのまわりという全体的な動きゆえというだけじゃなくて,存在そのものが強かった。感情を出していないときも。ミツコに温泉卵を渡すときにはっと気付いて軍手を口に咥える仕草がとてもかっこよかったしかっこよさと優しさが一瞬にして伝わってきた。存在感,纏っているもの。

 


 

単純にもりたさんから行定監督にアプローチしたってすごいなあと。今までやっていないことに挑戦する。でも自分は役者じゃないという。ゼロになるという。今回,雑誌とかで舞台そのものについてどう捉えているかを今までよりも発信しているような気がするけれど,読むたびにかっこいいなあ…ってなる。共演が二回目,三回目の人が出てきて,その一方で初舞台を踏む人もいる。そういう人を迎えるようになったんだなって。橋本じゅんさんとの対談がとても温かい気持ちになったから,そういう再共演って素敵だなって思った。それは観る側のわたしにとってもそうで。やっぱり観にいくのは剛くんが出演しているからなのだけど。なんせ剛くんのお芝居が好きだから,そこに立つ剛くんが表現するものを観たいから。でも共演回数が増えると親しみを覚えるし(V6の他メンバーとの共演も含めて),あるいは初めて観て好きだなあと思ったりとか。じゅんさん始め(映画ではおかださんが共演していると思うとそれまた不思議な感覚),千葉さんや村木さんもだし,あとあがささんも。初めましてに関しては瀧本美織ちゃんの初舞台を観ることができてよかった!って思うしファンになった。あと松本まりかさんがすごく好きだった。第一声を聞いたときに好きだ!って思ったのだけど声だけじゃなくて声を出している存在,というかヒカリやラウラが喋るたびに惹きつけられた。そういう出会いもたくさんあるから楽しい。

 

いつもあなただけを見ていたいから。最初と最後にマリアが言ってた,床下をうごめくもの,その上で踊り続ける,という言葉が迫るものがあってこれも好き(きちんと覚えているわけではないけれど)。踊り続ける。

 

あー,やっぱり最後,ニット帽とダウン着込んで長靴はいたまま,舞う雪の下,ばっと足を出してタンゴをひとりで踊るシーンが好きだ。後ろ姿。相手のいないタンゴ。でも私たちに見えていないだけ。あとメロディ。ブエノスアイレスのメロディ,タンゴのメロディ。

終演後,色々な感情と情景とメロディが巡っていて言葉にしたいこともたくさんあったのだけれどまだ自分の中にあるその余韻に浸っていたくてそれらを抱えたまま歩き電車に乗った。たとえばTwitterを開いてしまったらあの世界から切り離されてしまいそうだから。もっとあの世界に身を置いておきたいから。

 

午前零時。日付が変わる境目,昨日と今日,今日と明日の境界,新潟とブエノスアイレス

 

 


 

パルコ・プロデュース ブエノスアイレス午前零時


公演日程 東京公演 2014年11月28日 (金) ~2014年12月21日 (日)

     大阪公演 2014年12月25日 (木) ~2014年12月29日 (月)

原作 藤沢 周「ブエノスアイレス午前零時」(河出文庫)

脚本 蓬莱竜太

音楽 coba

演出 行定 勲

出演 森田 剛/瀧本美織 橋本じゅん千葉哲也
   中村まこと松永玲子
   松本まりか、村木 仁、川原正嗣、伊達 暁、
   岡田あがさ、万里紗、竹口龍茶、
   JIL Entertainment Gallery/原田美枝子