幽閉からの救出

 

 ~6/8 軍師官兵衛

 

こちらの官兵衛は幽閉中に髪が抜け落ちるのではなく伸びっぱなしになるパターンでしたか。というかNHKで、しかも大河で壁を走る師範を見られるとは思いませんでした。

 

幽閉中はオープニングでの若々しい殿の姿を見ると現状との落差にはっとする期間だった。見るに堪えない姿のはずなのに汚らしさまで感じないのは元々の整った顔立ちなのか官兵衛の器の大きさなのか。私が一番幽閉中に姿が変わってしまったという残酷さを感じたのは、土牢にいたときでも救出されたときでもなく、信長に対面するのに運ばれてきたときの姿でした。曲がらない片足を伸ばし、自力で体を支えることもままならない崩れた姿勢、じめじめした土牢の中ならそれもまた然りという感覚があったのか、日が当たる明るい場所でのその姿は異様なほどだった。信長が「許す」と言ったときに無言で見つめる官兵衛の表情が怖かった。このときの胸中はきっといいものだけではなかったはず。

 

大河に限らないけれど、おかださんの目ってすごいなと思う。それだけで引き込まれるし訴えるものがある。土牢の中で目だけ光ってるのだから、そりゃ玉松も驚くよ。その後、玉松を目だけで追う場面が強烈だった。体も顔もまったく動いていなくて、むしろ存在すら見えなくて、白目だけが浮かび上がっていて、その中を左右に動く黒目。動いているのが瞳だけで、なんかもう怖さを感じた。救出後もうなされる場面が幽閉の壮絶さを物語っていた。

 

それにしても官兵衛幽閉中に何回泣いたことか!もう大殿の存在が大きすぎて。これまでも十分好きだったけれど、さらに存在が大きくなった。官兵衛を捨てて松寿を取る、とか、跡継ぎを二人も…と秀吉に吐露するところとか、光とのやりとりも含めて、大殿の言葉にならない痛みとかそれでも官兵衛を捨てると絞り出したときの苦しみとか表情とか、もうもう大殿が喋るたびに泣いていたかもしれない。光が、松寿は人質に出したときから覚悟はしていたが、殿は決して裏切ったりはしない、と言い切ったときも泣いた。光の涙はだめだよ、ほんと。有馬に来てしまう光に、そうだ、もともと光にはこういう無鉄砲さがあったんだったと思い出してちょっとおかしかった。光も官兵衛もほんと互いのこと好きだよね、親子三人の再会もまた泣けた。いつの間にか松寿がとても成長していてめちゃくちゃ凛々しかった。長政になって戦に出るようになるとやたら官兵衛に叱られることを思うと、この松寿が…と何とも複雑。

 

あとはもちろん家臣団。善助が川を渡って(忍者顔負けの秘術使ったと書いてあるの読んだのだけど善助のスペック…!)殿と言葉を交わして、牢番に咎められた官兵衛がうわごとの振りをしながら、ぎこちなく口角が上がっていくのを見て、冒頭数分だというのに泣きました。一体いつ振りに官兵衛は笑うということをしたのだろうと思うともう本当に。三人との再会はもう号泣。ひとりずつ名を読んで顔に触れていく。はじめに善助が殿の生存を確認したときに声を震わせていたのも含め、家臣団の殿に対する想いがもうほんと伝わってきて、クールな九郎右衛門が目に涙浮かべている姿も迫るものがあった。城に戻った官兵衛が家臣たちを向き合ったとき、善助の「われらにお任せください!」がね、もうね、それに続く家臣たちの声がね、胸がいっぱいになりました。でもこれきっと、九郎右衛門にさらっと言われた「われらが殿の足になればいい」を受けてだと思うんだよね、うん。善助と九郎右衛門のやりあいも健在で嬉しかったよ!

 

しかし有岡城に入ったときの三人強すぎないですか。善助が投げた刀を受け取るのも、その後の立ち回りも九郎右衛門かっこよすぎた。あれですか、殿が師範なら家臣団もいつの間にか強くなる法則ですか。若い頃のVS盗賊でも家臣団は殿を守って刀を抜いていましたが、そのときより明らかに強くなってますよね、時間の経過考えたら当たり前かもしれないけれど、三人VS多数でやっぱりめちゃくちゃ強くないですか。

まあ仕えているのが壁走っちゃう殿ですからね。予告、本編、前回あらすじと何度も見せてもらえるくらいある意味見どころでしたからね(筋とは直接関係ない)。いくら幽閉後は自由に動けなくなるからといって、思いっきりやっていいですかと聞いて許可が出たからといって、ここまでやるとは誰も想像してなかったと思うよ!そりゃまあ出来るの知ってるけど!井上で見てるけど!滞空時間というか壁に足ついてる時間が長かった。時間止まってた。

井上で一度見ているからと言ってもあれから4,5年経っているわけで、格闘技のレベルは上がっているのかもしれないけれど歳も重ねているし(そこらへんの関係よくわからないけれど)、だから今また同じことを出来るって相当じゃないかなと。大河始まるとき、官兵衛は武術に関してはあまり強くなかったと本人が言っているのを聞いた覚えがあるのですが(最近聞かない)。その割には、おたつが死んだ後(まだ初期の時点で)、刀を振り回している身のこなしは只者じゃなかったけれど。いやいやめっちゃ腕立ちそうですけど!って思ったのを思い出した。

格闘技に刀は持たないけれど、刀振ってるときの動きは感覚的にだけどすごい。当時を生きた人たちがどのくらいのレベルで刀を振っていたかはわからないけれど、格闘技だけじゃなくて、ここまで鍛錬を積んできたおかださんはやっぱりすごいなと改めて思うのです。壁を走るのだって、あそこはある意味エンターテイメントだし、アクション俳優としての名が浸透しているおかださんがやるからこその見せ場なわけだから。

これまでのインタビューや他の出演者やスタッフの方の話を聞いて思うことは、すごく自分から突っ込んで、積極的に入り込んで、色々なことを変化させながら、変えながら作品を作り上げてるんだなということ。既存のものじゃなくて新しいものを。そしてそれを自身の言葉でも発信していることが最近のおかださんだなあと思うところで。うまく言えないけれど。自分のこだわりとか作品への思い入れとか取り組み方を積極的にまわりに、視聴者に伝えているという印象がある。

 

気付けば放送もあと少しで折り返し。撮影はもう終わりの方が近いんだよね。今からちょっと寂しい。

けどけど!ここからですよ、官兵衛が官兵衛たる所以は。個人的に黒田如水の方がしっくりくるくらいだから。どんなふうに変わるんですかね、官兵衛は!若き頃の人物像はむしろあまり描かれることのなかった部分ですからね。権謀術数に長け、容貌も相まってその底知れなさをまわりから恐れられる如水が早く見たい。長政にやいやい言ったり、その一方で長政のためにわざと我がままをいって重臣たちを困らせちゃう父上も見たい。朝鮮出兵関ヶ原も、もちろん本能寺の変も官兵衛の見せ場目白押しですからね。

 

今回の大河は堅苦しさとか重々しさというよりは、わりと軽いというかあっさり描いている部分もあるような印象(個人的にだけど)。それが動と静とか、幽閉の前と後とか、そういった区切りによるものなのかどうかはわからないけれど。絡まり合う思惑や策略、といった見えない探り合いよりも、官兵衛を中心とした人たちの心情にかなり比重が大きいのかなあと。ドラマだからもちろんそうなのだろうけれど、戦国時代の政略とか陰謀とか調略とかがざっくりしているような(そこどうやって調略したの、そこんとこ詳しく教えてよ!ってとこあったし)。それもまた今後との対比であって、情に訴える官兵衛あってこそなのかもしれないけれど。

とにかくおかださんが"ねっとり"と言ったらそれはかなりねっとり粘っこい官兵衛になるはずだから、それはもうとてもとても楽しみです。とりあえず明日が楽しみです。ちょうど自身の年齢超えてくるところだよね、(ニッセイですでにおじいちゃんにはなっているけれど)それもまた楽しみ。