夜中に犬に起こった奇妙な事件

 

 原題:THE CURIOUS INCIDENT OF THE DOG IN THE NIGHT-TIME

夜中に犬に起こった奇妙な事件

夜中に犬に起こった奇妙な事件

 

 


 

森田さんの舞台が決まってから読んだときに書いていた感想と引用文(2014.2.28読了)。

 

これから父親とクリストファーの関係はどうなっていくのだろう、犬のウェリントンを殺した=自分も殺すおそろしい人間、という論理を持ってしまったクリストファー、そして少しずつ(時間を決めて話をする)順番に関係を築いていこうとするところで終わる。母親よりもずっとクリストファーのことを理解して接してきた父親だけに、あまり安堵できる結末ではなかったけれど、クリストファーが記したノート、という意味ではこういう終わり方も致し方なしなのかな、とも思った。

クリストファーが生きている世界。レビューに目を通して思ったのは、こういう世界の理解はまだまだされていないということ、初めて知った人、驚いた人、それでもよくわからない人。多少なりとも知識がある私にとって(それが理由かはわからないけれど)迫るものもあった。だってクリストファーのまわりには彼を、彼が生きている世界を理解してくれる人なんてほとんどいないから!

だから学校のシボーン先生のように、どうやって落ち着いたからいいか、こういうときはどうしたらいいか、きちんと説明をしてくれる人の存在がとても大きく感じた。そしてクリストファーは“書く”ことで自分でことばにすることができる。けれどもこれはあくまで一人の例であって、嫌いな色だとか強制終了の仕方だとかそういうものは個々に異なる。クリストファー自身も十五年かかって今のやり方を積み上げてきたし、それは父親もそう。母親や隣人の夫と別の場所で一緒になっていた。最終的に別れて戻ってきて、父親を恐れるクリストファーは母親と新しい生活を始める。でも母親は父親ほどクリストファーのことを理解できていないだろうし感情で動いてしまう人なのだろう。彼自身の世界とあわせて、彼と関わる人、関わり方、そういうものも様々で、でもクリストファーのすべてが特別というのではなく、程度の差も含めて似た感覚は私たちにもあるのだと思う。

“なぜかというと”がよく出てきていて、そうだろうなと思った。ウェリントンを殺した父親は自分も殺す、という論理も。母親の元へ行く冒険はクリストファーにとってかなり大きなものだったと思う、次々と起こる予期せぬ事態に、その都度自分でルールを見つけ、説明をつけ、対処法を考え、そういう適応をしたということはすごいことなんじゃないかと感動した。章の番号も素数になっているし、数学や物理、クリストファーが見たものが絵や図で描かれているのもおもしろい。これを剛くんが演じるのだから!十五歳!そして舞台は日本でクリストファーじゃなかった!日本人の名前だった(少し違和感、彼ならクリストファーでいけると思うのに!)。あの世界をどうやって見せるのかな、そして剛くんがやるというのも納得。

クリストファーは自分自身のことを賢いと思っていて、人とは違う、という意識はあっても障害という言葉は出てこないし、自らを卑下することもない(むしろ他の子どもを蔑むこともある)。自分と違う人の感覚を理解できないし、そういうものだということはわかってはいるようだけれど(理屈として)自分はそうじゃないと知っているから対比がはっきりしていた。翻訳時のタイトルも原題そもまま、この長い言い回しも彼のことばだから。

 


 

ふつうの小説は起こらなかったことについて書いてある嘘だから、ぼくは不安でこわくなる。― 41ページ

絶対的に必然的なものでないかぎり、それらが存在すると推定すべきではない。― 159ページ

世界じゅうにはいったい何人の人間がいるのだろう、彼らはみんな家があり、旅行する道路があり車もペットも服もあって、みんな昼食を食べて寝てそして名前もある、と考えていくと頭が痛くなったのでぼくはまた目を閉じて数を数えてうなり声をあげた。― 275ページ

しかし人生では、どちらかにきめなければならないことがたくさんある   ― 151ページ