もうほんとにね、すごかった
話が進むにつれて、鉈切り丸が悪行を重ねるごとに迫ってくるものがあって、最期のシーンでは胸が詰まって、観終わった後とても重いものをひきずったまま帰路につきました
とてつもなく重いものにのしかかられた感覚
剛くんは森田剛ではなく、鉈切り丸でした
最初に登場したとき、シルエットだけでぞくりとした
第一声を耳にしたときに、剛くんとはまるで別人がそこにいるかのようだった
足をひきずっているのに走り去る姿はあまりにも滑らかで、その姿が目に焼き付いている
頼朝らに取り入ろうとしているときの穏やかな声と、その魂胆をさらけだしているときの野望に満ちた声、その落差に怖くなる
でも一番耳に残っているのは、鳶に話しかける声
切なさとかやり切れなさ、悲しさとか孤独を背負った憂いを帯びたあの声が私の中での鉈切り丸の声として強く残っている
観劇直後は最期の、斬られながらもわめいていた声が痛いほどに頭から離れなくて、観ているときもあの言葉に、声に、何かが胸いっぱに広がって苦しくなって泣きそうになってでも泣けなくてえぐられるような想いだったけど、今、蘇ってくるのは「鳶ぃ…」と呼びかけるあの声音
少し間を持たせるというか語尾を伸ばすような話し方、でもその抑揚に引き込まれるというか、それを思い出すと瞬時にあの空間へ引き戻されるような感覚
悪とか権威とか野望とか
そういうものについて考えたり解釈したりする以前に、感覚として、迫ってきたもの、のしかかってきたものをそのまま取り込んでしまう舞台だった
そして個人的にはそういう感覚は決して嫌いではない
良いか悪いかは別にして、そういう重苦しい余韻に浸る時間が心地よかったりする、もはや中毒、だからそういう感覚をそのまま留めておこうかなと思う
歴史は勝った者、権威によって書き換えられると言ったのは鉈切り丸だった
あれほど自らの名を残したいと、残すためだけに突き進んできた道だったのに、鉈切り丸の名は歴史から消されてしまった
生まれたときから穴の中だった、穴を埋めてきた、鎌倉に空いた穴だった、土にはなりたくない、鳶の羽が欲しい、飛んで行きたい
台詞をそのまま覚えているわけではないけれども、あの最期に怒涛のように聞こえてきた叫びは突き刺さるようにして迫ってきた
鳶の羽が欲しいと、土になるくらいなら、それで飛んで行きたいと、鳶に話しかける鉈切り丸の姿に大きすぎる悲しみを見たような気がした
気付けば鉈切り丸の近くにいた人のほとんどが彼の手により葬られていた
そして最後に隣にいたのは産みの母親だった
鉈切り丸という幼名の本当の由来
足をかばいながら戦う術を身につけた
醜い容姿なら頭と弁でのしあがる方法を考えた
あの身体での立ち回りは圧巻だった
観ているときには何の違和感もないくらいに、当たり前のように観ていて、後から改めて思い出して違和感なく観ていたことに驚く
2階席からだったので舞台をわりと俯瞰できたせいなのかもしれないけれど、むしろだからこそ、どこにいても鉈切り丸に目がいってしまった
もちろん、剛くんの舞台だから観に行ったわけなのだけれど、観ている間は森田剛はそこにはいなくて、いるのは鉈切り丸で、その鉈切り丸が纏う何かに常に惹きつけられていたような気がする
かと思えば、あれほどの最期を遂げたのに、カーテンコールで颯爽と走ってきたのには何というか驚きというかギャップというか、さっきまでのは何だったんだと思ってしまいました、こっちはまだ諸々引きずっているのに!
そこにいるのは鉈切り丸ではなく、鉈切り丸の恰好をした森田剛だった、みたいな
ほんとあの軽やさは何なんだ、そして上演中は全く思わなかったのに、やっぱり剛くん小さい!と思ってしまう通常感
むしろ舞台上ではそういう華奢さを一切感じさせなかったことに感嘆する
そして座長だなあとカーテンコールで改めて思う、ほんとすごい人だ
以下、他の感想
生瀬さんはやっぱり生瀬さんだ!ヒロモッティーとの掛け合いね
あんな内容なのに、頼朝登場しただけで場の空気が変わるというか、笑いがどんどん起こってしまうというか、頼朝の場合は、そこにいたのは生瀬さんでした
鉈切り丸に「YOUしちゃいなよ!」って言っちゃってたからね
政子の尻にひかれるかかあ天下、海を見に行きたい小心頼朝
何より相棒ヒロモッティーが秀逸すぎる、ポップが半端なくポップだ
いちいち座卓を持ってあたふた移動するヒロモッティーに目が釘付け、似顔絵上手すぎ
パンフレットにもあったけれど、実は一番大局を捉えているのかもしれない
最終的に歴史をその手で残す者であり、すべての成り行きを見ていた者
バラエティに出ていたときも生瀬&山内コンビが抜群だったしね
殺陣は木村了くんの身軽さに目を瞠りました
宙を舞ってたよ!軽やかに飛んでいましたよ!めちゃくちゃかっこよかった!
観る前に他の方が了くんの身体の軽さに驚いておられましたが、まさにその通りだった、これか!と思いました、いやほんと身体が宙に浮いてました
須賀健太くんは、初めて見たのが「人にやさしく」だったので、なんかもう舞台とは異なる次元で感慨深かった
最年少だし、お兄ちゃんたちに囲まれて、色々なところで剛くんとの共演について話しているのも見聞きしていて、あどけなさと純粋さの義経でした
でも追い詰められて自害するところはやっぱりすごかった、でもパンフレットのコメントがとても可愛くて、そうかまだ10代…!と慄きました
いっけいさんは、やっぱりああいう締める役なんだなと
最後に鉈切り丸を追い詰める景時
インタビュー読んで確かに裏のある役が多いし、いっけいさんが出てきたら怪しいと思ってしまう感覚
殺陣はもちろん、音楽も映像もすごかった
ああいう音楽は好きだなあ、開演前にもかかっていたけれど
あとは鳶の鳴き声、鉈切り丸が話しかけていたシーンということでより印象にあるのかもしれないけれど、何より鳶の鳴き声が鮮明に耳に残っているかもしれない
パンフレットの最後も鳶への語りかけだったし
それにしてもパンフはとても読み応えがある!
台詞の一言から本心を紐解く、っていう構成がとてもいいなと
その台詞も書かれているのだけれど、それってその人にとってとても重要な意味を持っているんだよね
開演前にだいたい読んでいたので、その台詞が出てきたときに、「ああ、これか」と思うと同時に、確かにこの台詞だなと納得もして、すごく深く入ってくるようだった
対談もいいしなあ、稽古写真もたくさんあったしなあ
ポスター始め、デザインがとても好き、筆で書かれた字も好き
私にとっては、最初で最後の鉈切り丸だったわけだけれど、まだ始まったばかりで、私が観たのは4回目だったから、これから回数を重ねてもっと変化していくのかなと思うと、それも観たいと思うのですが
でも、本当に観てよかったなと
突き刺さってえぐられて、重いものがのしかかるほどに余韻を残す強烈さってなかなかないと思うので
あと、劇場の前に立ったときに、前回ここに来たときはSOPHIAのライブで、直前に活動休止が発表されて色々な感情を抱えながらこの場にいたなと少し感傷に浸りました